僕は今回の課題で最終的に、数年前に亡くなった片麻痺の祖母を思い出しながら自助具を作った。
ここにそのプロセスをまとめる。
僕は1週目の課題とプレゼンの「日常生活の中から不便、できないを発見する」で歯磨きを選んだ。
何故かというと、歯磨きは絶対に無くてはならないものだからだ。面倒な作業を省くようなアイデア商品はあまり好きではない。そのぐらいの不便はむしろ生活の彩りでは無いだろうか。
数あるトイレ、風呂、などの「無くてはならないもの」のなかでなぜ歯磨きを選んだかというと、
実際僕自身が歯磨きや親知らずの抜歯など口腔関連で苦しんでいるのと、2年前の33人が4ヶ月生き埋めになった「チリの炭坑落盤事故」で4ヶ月歯が磨けない事による「重度の虫歯」で人々が苦しんだという事実を聞いて、「歯磨きの重要さ」に関心を持っていたからである。
1週目のプレゼンでたくさんの人に歯磨きについての共感を寄せてもらって、確かに歯磨きに手応えを感じた僕は、歯磨きはそのままに違う角度からのアイデアを試みた。
僕の祖母は片麻痺でいつも困っていた。特に祖母が困っていたのが歯磨きと入浴とトイレ。それ以外の事はホームヘルパーを雇っていたので特に困る事は無かったようだが、歯磨きなどはデリケートな問題であったり、またあまり綺麗な事ではないのでホームヘルパーに気を使わせたりするので自分でやりたかったようだ。
そんな祖母にぴったりなのは「自助具」だった。何もかもやってあげるのではなく、本人がやりたくてもできない事をデザインを使って補助しようと思った。
祖母は利き手でない方の手でも何でも上手にできた。もちろん歯磨きも。でも両手を使わなければいけない動作、つまり歯ブラシに歯磨き粉をつけるなどの動作には大変苦労をしていた。そこから発想を得て、歯ブラシを固定する道具を制作した。
はじめのいくつかはクランプの要領で歯ブラシを固定するものを制作した。縦にするもの、横にするもの。
制作してみて気づいた事は、縦に歯ブラシを固定すると歯ブラシにつけた歯磨き粉がチューブのキャップを締めている間に垂れてしまう。対して横向きはそれほどの問題は感じられなかったがスマートではなかった。
そこで僕は歯ブラシと対になるもの「コップ」と組み合わせたらスマートにできるのではと思い、すぐに制作する事にした。
▼アイデアスケッチの一部


ペットボトルやケント紙で試作をいくつか制作し、壁などに固定するよりコップに固定した方がやはり良いと感じたのでこの方向で進めるように決めた。 そして試作を作ってみるといくつか問題が見えてきた。
1 歯ブラシを横向きに置いて歯磨き粉を付けようと下向きに力をかけると歯ブラシが転げ落ちてしまう。

この問題はコップの持ち手の方向に溝をいれる事で屋根を作る事ができ、下方向への力に耐えれるような処理を施し対応した。


2 屋根を作ったがために「溝」が「穴」になってしまい、歯ブラシを入れる難易度が上がってしまった。
この問題は屋根を丸くし歯ブラシを穴の中に誘導する加工をして対応した。

親とバイト先に見てもらいながら制作してみて、自分では気づけない不自由に気づいた。やはり僕は健常者なので感じたことのない不自由を1人で想像しながら制作するには無理があることがわかった。
他者の意見を聞くことは大切なプロセスの1つのようだ。
このコップのアイデアを思いつくまでにかなり時間がかかってしまって本制作にあまり時間がかけれなかったのが心残りだ。
コップともう一つ祖母からヒントを得て制作したものがある。
これも歯磨きと同じく祖母が自分でしたいと思っていたもので、「体を洗う、拭くタオル」だ。
片手では洗えないところがある。それは「背中」だ。
僕たちは普段両手を使って背中を洗っている。
初めに考えたのは海外の入浴で使うような「ブラシ」だ。だが長い間「手ぬぐい」や「垢擦りタオル」に慣れてきた日本人、特に祖母が今更ブラシに対応できるとは思えなかった。
やはり日本人が使うことを前提とし「日本人らしさ」を大切にしたかったためタオルで制作する事にした。
まず考えたのは背中の洗い方だ。背中は両手を使って「引っ張る」という動作を交互にしている。
片手しか使えない場合、引っ張ったあとそれを反対側に引っ張る力が欠けていることに気づいた。
初めはゴムを付けてタオルの片端をかかとで踏みながら洗う方法を考えた。しかしこれは風呂場ですると転倒する恐れがあり、何よりこれでは珍道具だ。
次に自分の家を思い出した。僕の家の風呂場は身体障害者の祖母が暮らしていたため手すりがついている。
なので手すりにS字フックなどでタオルの片端を固定し背中を洗う方法を考えた。障害者の方が暮らしてる家なら手すりくらいあるだろうと想定して。しかし聞いてみるとそのような家も多くはなかった。
そうなれば吸盤などでタオルの片端を壁に貼付ける方法を考えたが、とてもナンセンスでスマートではない。
そこで麻痺してしまっている右手を思い出した。
右手にうまくタオルを固定する事ができれば右手の重みで左手で引っ張ったタオルを戻す事ができる。
僕はすぐに制作を始めた。
初めの案はゴム製のリストバンドにサスペンダーのようなものがついていてタオルを装着できるというものだ。

だがこれは利き手ではない方の手で留め具にタオルを付けるという
動作が発生してしまう上にタオル以外に、留め具やリストバンドな
どのパーツが増え、加工賃などのコストや、異素材のための耐久
度の低下が想像された。少しでも手に取りやすい価格の実現、タオ
ルだけでどうにかできないものか。
次に思いついたのがタオルの片端に輪をつけ、もう片端をそこに通すというもの。素材を一つ減らす事ができた。
しかしまだ減らす事ができるはずだ。そし
て思いついたのがタオルの片端に穴を開け
てそこにもう片端を通すというもの。これ
ならタオル一つでできる。

だがしかし通す穴の部分が解れてしまった。これはボタンホールステッチを使ってみても解決できなかった。「穴に通す」という作業さえも省いた方が良いと思い、考えたが今回の課題中には思いつく事ができなかった。
スタイリング重視の課題ではなく、機能美重視のデザインの課題だったので好きなだけトライ&エラーができた。
僕は最近の見た目ばかりのデザインや一目を引く奇抜なアイデアだけの商品の存在に疑問を覚えていたので今回の課題はとても興味関心が湧いた。
制作自体は未熟なものであったが、このタイミングでこの課題を経験できてよかった。
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